経済学者×VTuberによる対談企画、未公開トーク第三弾
経済学者・松尾匡とVTuber・リコピンめぐみによる異例の対談企画が実施された。10月30日に社会評論社から刊行された『変革のアソシエ』38号に掲載された特別対談だ。「自動運転と経済学」をテーマに、松尾匡が聞き手となり、リコピンめぐみが自動運転の現状と未来を語っている。前々回の未公開トークVol.1では、自動運転について考える時には避けて通れない“トロッコ問題”をテーマにした議論が繰り広げられた。前回の未公開トークVol.2では、自動運転と密接に関係していくことになる「シェアリングエコノミー」と「電気自動車(EV)」に関する議論をピックアップした。この二つのトピックについては、リコピンめぐみの「自動運転・EV化以降の未来で生き残る、たったひとつの冴えたやり方」にも詳しい。
未公開トークの最終回となる今回は、自動運転やEVの議論から飛び火した“地域帝国主義”に関する話題をピックアップ。リコピンめぐみからの“地域帝国主義”を巡る率直な質問に、経済学者・松尾匡はどう答えたのか――。
地域帝国主義と円高対策
リ 最近、白井聡さんとの間に論争がありましたよね。あれを拝見させていただいて質問があるのですが、自動運転のAI開発はいま中国が非常に勢いがあります。自動運転では中国か米国、EVでは中国が次の時代の勝者になるんではないかと言われています。シェアライドは中国か米国、車内エンターテイメントは米国が覇権を握る可能性が大きい。自動運転・EV化による日本の産業界へのインパクトは非常にネガティブなので、松尾先生が論争の中で危惧されていたような地域帝国主義のポジション——反米なので地域帝国主義で東南アジアから搾取、というような——すらも日本は取れない可能性が高いと思います。自動車産業が中国に大敗した後、円安も進むと思うのですが、日本はどうすべきだと思いますか?
松 先ほども話しましたが、消費者側としては「何産でもええやん」というのはありますよね。さっき、「EVを町工場で…」という話がありましたが、EV化が進むと、どこかで大量生産して輸出するということになるんですかね?部品を集めて日本で組み立てるということになりますよね。中国資本が覇権を握るかもしれないけれど、日本には中国からの資本がたくさん入ってきて、あちこちで車を組み立てるという形になる方が可能性としては高いのではないかと思いますね。ですので、輸出がどうの、という問題は起こらないかと思います。まぁ、ボスが中国人になるというくらいで、それが気に食わないという人はいるかもしれませんが、本来の労働者階級の側としては、資本家が何人であろうが、敵である事には変わらないですよね(笑)
リ 逆に中国が地域帝国主義のようなポジションを取ると思うのですが。
松 それはそうですね。
リ 自動運転・EV化の遅れもそうですし、あとは過剰な法規制がイノベーションを阻害してしまうと、30年後くらいに、日本はいまのキューバみたいになってしまうかもしれません。「日本ではまだ旧世代の車を手動で運転しているらしいよ。観光で見に行こう」みたいな。それが望ましいかというと、私は嫌リコ! 日本はイノベーションを社会に対する脅威として過剰反応しがちで、そういう危険性もあると思うんです。
松 それは、そうなりたくないとは思いますよ(笑)ただ、マクロ経済学的には、為替レートって安くなってもどこが悪いのって事なんですよ。どちらかと言うと、将来的には高齢化が進んで、貯蓄が不足する状態になるんです。貯蓄を切り崩す方が多くなってくる。貯蓄が不足する状態になると、外国からお金を借りることになります。つまり貯蓄が不足したせいで利子率が高くなると、日本で運用した方が得なので日本に資金が流入してくる。どちらかと言うと円高の方向に圧力がかかる。それから、外国にたくさん企業が進出していますよね。これからも進出すると思うのですが、利潤送金が行われて、外貨を日本円に直すので、ほっといても円高の圧力がかかります。そっちの問題の方が大きいと考えています。なかなか避けがたい動きなので、どうやって円高になるのを抑えていくかを考えなければいけません。お話にあったように、ただでさえ日本の自動車産業が大変な中で、円高圧力がかかると大変なことになりますよね。そっちの方を考えていく必要があります。
リ ちなみに、お金をどんどん刷っていくとお金が余って円安にはなるじゃないですか。自分で招いた円安というのは、製造業にとってはあまり嬉しくないものなんですか?
松 一応円安なので輸出は増えますが、お金を刷ってわざと円安にするのは何度も使える手ではありません。将来的に人手不足が進行して労働力が足りなくなり、インフレ気味になった時には使えない手です。そうなった時に恒常的な円高圧力をいかに回避するかですね。なかなかの難題です(笑)
リ たしかに難しい問題ですね。非常に勉強になりましたリコ。ありがとうございました!
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この対談の本編は、『変革のアソシエ』38号(税込1,080円)に掲載されている。
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松尾匡、ブレイディみかこ、北田暁大 著
『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう――レフト3.0の政治経済学』(Amazon.co.jp)
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