ニューヨークに恩恵をもたらすシェアリングエコノミーVSロビイスト

投稿日:2019年1月11日 更新日:

ニューヨークまでをも飲み込んだシェアリングエコノミー

Airbnbが活性化するマイノリティ・コミュニティ

ニューヨーク市におけるシェアリングエコノミーのあり方が、にわかに議論になっている。ホームシェアリングのAirbnb(エアー・ビーアンドビー)は、ニューヨークに540億円もの経済効果をもたらしている。もはや言わずもがなではあるが、Airbnbは空き部屋の持ち主と空き部屋を探している旅行者をマッチングするシェアサービスだ。バケーションやビジネスでの旅行時 の、ホテルに代わる宿泊先の選択肢として、すっかり定着した。定番の観光地であり、ビジネスにおいても中心地であるニューヨークでは、宿泊料が高価なことは当たり前だった。電車でジョージ・ワシントンブリッジを横断した先にある、お隣のニュージャージー州に安い宿を借りることもお馴染みの節約術だったのだ。

しかし、空き部屋を持つ誰もがマーケットに参入できるAirbnbの登場は、ニューヨークのホテル業界に新たな競争をもたらした。大きな資本がなくとも参入できるこのビジネスモデルは、もちろんマイノリティのコミュニティにも大きな影響を与えることになった。2016年には、ミッドタウン・マンハッタンのラテン系コミュニティのホスト数は6,560を数えるようになり、5,800万ドル(約62億円)を超える売り上げを記録した。このコミュニティに存在していたホテルの数がわずか35であったことを考えれば、Airbnbがこの地域にどれだけの恩恵をもたらしたのかは、容易に想像がつくところだ。このラテン系コミュニティには、Airbnbによる直接的な収入の他にも、ローカルビジネスを営む商店や地元のレストランにも経済効果をもたらしている。新たに資本が参入するのではなく、今あるモノや人を活性化させるシェアリングエコノミーは、例えそれが大都市ニューヨークであろうとも、地域に根ざした人々に活力をもたらしているのだ。

巨大なタクシー業界を押さえ込んだUber

時間が空いている車の所有者と移動手段が必要なユーザーを結ぶUberは、ニューヨークでも大活躍だ。ニューヨークでは長らく、イエローキャブが文化的なアイコンになる程までに、タクシーは定番の移動手段であった。ティム・ストーリー監督の『TAXI NY』(2004)、マーティン・スコーシージ監督の『タクシードライバー』(1976)をはじめ、ニューヨークとタクシーを扱った映画作品は数多く登場している。そんなニューヨークにおいても、Uberは登場からわずか数年で、タクシー業界を脅かすまでの成長を見せている。昨年7月には、Uberが一日当たりの平均乗車数28万9千回を記録し、タクシーの27万7千回を上回った。2017年は歴史上初めて、ニューヨークにおいてタクシーが敗北を経験した年となったのだ。Uberはさらに、Uberドライバーをサポートする施設として、「Uberドライバーセンター」を開設。ブロンクス、ブルックリン、クイーンズの同センターでは、Uberの職員が常駐している。利用者のみならず、サービスの提供者側にも焦点を当てたケアを行うことで、タクシー業界とのドライバー争奪戦を制する考えだ。

 

ニューヨーク発・ボートシェアリングのSAILO

オンラインでボートを貸したい人と借りたい人を結びつけるSAILOは、ニューヨーク発のシェアリングサービスだ。ユーザー側にボートを操縦できるライセンスを持っている人がいない場合には、操縦士も同時に手配することができる。遊休資産=ハードを手配するAirbnbと、人の労働力と時間を手配するUberのハイブリッドのようなサービスだと言える。ボートは車や家よりも所有者が少ないが、比較的、遊休資産になることが多い。オーナーにとっても、利用者にとっても、たまのバケーションにしか利用しないものをシェアするという点において、シェアリングエコノミーに最適のコンセプトだ。SAILOは、ボストン、サンフランシスコなどにもエリアを広げ、大きな注目を集めるシェアサービスの一つとなっている。

 

SAILO 公式ウェブサイト

 

シェアリングエコノミーに立ちはだかるロビイスト

AirbnbとUberに挑む新人議員とベテラン議員

ニューヨークにおいても順風満帆に見えるシェアリングエコノミーだが、唯一、拡大を妨げる障壁が存在している。ホテル業界とタクシー業界が丹念にロビイングを行なっているニューヨーク市議会だ。Airbnbに対しては、カリーナ・リベラ市議会議員が先導し、サービス提供者の情報を市に提出することを義務付ける法案作成が進められている。リベラ議員は、2017年の選挙でニューヨークホテル業評議会(The New York Hotel Trades Council)の支援を受けて当選した民主党の新人議員。一年生議員として実直に宿題に取り組んでいるといったところだろう。
ルーベン・ディーアス・シニア市議会議員は、長らくニューヨーク州議会の上院議員を務めた、民主党のベテラン議員だ。今年で75歳になるディーアス・シニア議員だが、15年間務めた州議会から鞍替えした市議会で取り組んでいるのが、シェアライドサービスのドライバーに有料の登録を義務付ける制度である。タクシー業界から多大な支援を受けてきた同議員が進めるこの制度案には、ニューヨーク市長のビル・デブラシオも支持を表明している。両法案が可決されれば、サービス提供者の減少や料金の値上げに繋がることは目に見えて明らかだ。

 

シェアリングエコノミーは政治を動かすことができるか

政治信条に拘らず、支援を受けている団体の意向を汲まなければ生き残ることができないのが、政治の世界だ。シェアサービスには、一介の市民が提供者になり消費者にもなるという特殊性から、ロビー活動を行う団体が出来上がりにくい。プラットフォームを提供する企業も、スタートアップで小規模という特徴を持つ。ニューヨークのこの事例は、シェアリングエコノミーが孕む課題を、もっとも先鋭的な形で示したものだと言えるだろう。既存のシステムに捉われないアイデアで経済界を席巻するシェアリングエコノミーだが、次は政治の世界を動かすことができるかが問われている。

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