シンガポールの「スマートネーション」、世界の「スマート」へ。

投稿日:2019年1月11日 更新日:

スマートネーションを目指すシンガポール

シンガポールで生まれたスマート紙幣

シンガポールとスイスを拠点とするTangem(タンゲム)が、シンガポールで「フィジカル・ビットコイン」と呼ばれる現物のビットコインの試験販売を開始したとして話題になっている。この現物のビットコインは、「スマート紙幣」とも呼ばれており、サムスン製のチップが取り付けられている。0.01BTC、0.05BTCの単位で販売され、手渡しでの「送金」が可能になる。シンガポールで製作されるスマート紙幣は1万枚。シンガポールは、中央銀行が国際決済においてブロックチェーンを利用することを表明するなど、ブロックチェーン技術の分野で注目を集めている。今回のスマート紙幣の発売によって、シンガポールから仮想通貨の新たな常識が生まれることになるのだろうか。

(PRNewsfoto/Tangem)

(PRNewsfoto/Tangem)

国のスマート化

なぜ、シンガポールでブロックチェーンなのか。その背景には、ドイツのインダストリー4.0と同様、国をあげてイノベーション国家を目指すある構想が存在する。

遡ること4年前、2014年8月にシンガポールのリー・シェンロン首相が表明したのが、「スマートネーション構想」だ。スマートフォン、スマートウォッチ、スマートファクトリー、と進んできた「スマート化」。シンガポールが目指すのはその究極形態である、国のスマート化だというのだ。スマートネーション構想の目的は、国家規模でIoT(モノのインターネット化)とICT(情報通信技術)の導入を進め、経済成長と国民の生活水準の向上を実現することだ。シンガポール政府はこの目的の実現のため、スマートネーション・ディジタルガバメント省 (Smart Nation and Digital Government Office)を立ち上げた。

国中を対象としたスマートネーションの取り組み

国全体を3D化する「バーチャル・シンガポール」

スマートネーション構想の一環として、シンガポール政府がフランスに本社を置くダッソー・システムズ社と進めるのが、「バーチャル・シンガポール」プロジェクトだ。シンガポール全土を3D化するというSF映画さながらの取り組み。シンガポールの街の3Dモデルを作り出すことで、街中の駐車場の空き状況や、植樹活動の状況などを把握することができる。バーチャル空間で都市計画をシミュレーションできるということでもあり、環境政策や整備工事の計画も立てやすくなる。平面の地図ではなく、3Dで立体化することにより、バリアフリー推進の計画にも役立つだろう。「街を3D化する」と聞くと、監視社会を作り出すようなイメージも持たれるかもしれないが、バーチャル空間で実験を行うことができれば、行政コストや環境破壊を最小限に抑えることができる。問題は技術そのものではなく、使用者の倫理観ということだ。

 

交通と住宅のスマート化

バーチャルシンガポールも利用してスマートネーションで進められるのが、「スマートトラフィック」だ。先に触れた通り駐車場の空き状況をインターネットで共有できるため、自動運転の車でもスムーズにパーキングスペースに向かうことができるようになる。料金も自動的に課金されるため、日本のコインパーキングで見られるような大掛かりな駐車場設備も不要になる。

住宅をIoT化する「スマートホーム」では、例えば留守の際に水漏れが起きたり、要介護者が危険な状況に陥った時に、センサーで感知して通知を送ることが可能になる。リスクに対応するマネジメントのみならず、住人が家を離れる際に空調やテレビをオフにしたり、電気や水の使用量を詳細にデータ化することで、住民は節水・節電に繋げることができる。

 

 

スマートネーションが進む道

観光立国からIT国家へ

ここまで見てきて分かるように、スマートネーション構想とは国をスマート化するということであり、各エリアのIoT化を進め、スマートな総体を作り上げるということである。シンガポールは資源が少ない国で、これまでは観光立国として世界に名を知られてきた。国際競争での生き残りを図るべく、シンガポール政府は次なる一手として、先端技術の分野で先進的な取り組みを行っている。そして、こうした国家をあげた取り組みに呼応しているのが、スマート紙幣を販売したTangemのような民間IT企業なのだ。

 

スマートネーションは監視社会を生むのか

一方で、背後にチラつくのは、完全な監視社会の到来だ。公共施設から家庭に至るまで国中がインターネット接続される。そうした疑念が湧くのも無理はない。監視社会への危機感を持つことは重要なことであり、新たな技術を正しい形で利用していくためには必要な感覚だ。だが、既に述べた通り、問われることになるのは人間の倫理観の方であり、スマート化した国を監視できるほど市民がスマートになれるかということだ。大切なのは、そうした感覚を持った人々が「蚊帳の外」にならず、警鐘を鳴らしながらも技術を利用していくことである。スマートなネーションが成功するための絶対条件は、スマートなピープルが存在していることなのだ。

 

 

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