シェアリングエコノミーの功罪 「所有から共有へ」の現在地

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所有から共有へ」の現在地

-急速に成長するシェアリングエコノミー

所有から共有へ」。シェアリングエコノミーの台頭と共に登場したこの標語は、既に単なるスローガンの枠を飛び出し、人々の生活に浸透し始めている。シェアハウスは全国規模の広がりを見せ、アジアではシェアサイクル(バイクシェアリング)事業が急速な成長を見せている。ライドシェアリングサービスのウーバーは、日本国内での規制の網を潜り抜け、フードデリバリーツールのシェアという予想だにつかない方向から日本経済への”侵入”に成功した。

-「シェア」が生み出したもの

シェアすること、それは新たな生産者を生み出すことでもある。シェアハウスは運営に参画する者を増やし、ウーバーは世界中でプロのドライバーを生み出した。誰もが、これまでより少ない労働量で生産者として収入を得ることができ、より安価にサービスを受けることができるようになった。世界は少し、寛大になったようにも見える。

 

-「シェア」が奪うもの

一方で、もちろん、シェアリングエコノミーには課題も山積している。新しい経済システムにより職が奪われると拒否反応を見せる市場もあれば、逆にブルーオーシャンでの「乱獲」が行われる例もある。シェアリングエコノミーは果たして、陰惨で鬱屈した世界に光をもたらす人類の希望なのか、もしくは新たな搾取の装置なのか。今回は、北米で定着したシェアライド事業と、アジアで広がりを見せるシェアサイクル事業を通して、シェアリングエコノミーの現在地を探る。

シェアライドが直面する本当の壁

-ウーバーがある日常

シェアライド最大手のウーバー(Uber)は、タクシーよりも安価な配車サービスとしてアメリカを中心に定着。アプリ一つで配車から支払いまで完了できる手軽さと、一般人が自家用車を登録し、空き時間にドライバーとして活動する斬新なアイデアによって、乗客とドライバー、つまり市場の売り手と買い手の双方から支持を受けた。アメリカではタクシーに代わる移動手段として、人々の生活に浸透しているのだ。

-立ちはだかる課題とそれへの対案

一方で、ドライバーたちの労働者性を巡る訴訟や、社会問題に発展した一部ドライバーによる乗客への犯罪行為など、ウーバーが歩んできた10年弱の歴史は、決して順風満帆とは言えない。日本への進出も目指すが、業界団体の強い反発で、シェアライド関連の法整備が遅々として進まない。

それでもウーバーは、配車サービスの技術を活かしたウーバーイーツ(Uber Eats)というフードデリバリー代行サービスで日本に進出。法律で人が運べないなら食べ物を運べばいい、と言わんばかりに、一般人がレストランのデリバリーを代行するという新しいビジネスモデルを提示している。2018年3月には、米国で医療機関とその患者へ配車サービスを提供する「Uber Health」の立ち上げも発表された。

 

-本当に「シェア」すべきもの

ウーバーは、自動運転技術を搭載した自律走行車の開発も進めており、ただでさえ競合相手になっているタクシー業界の神経を逆撫でしているようにも見える。しかし、自動運転技術はもはや、巨大企業が占有する特殊な技術ではなくなりつつある。ウーバーがそのノウハウを飲食業界や医療機関に「シェア」したように、配車サービスのノウハウや自動運転技術は、タクシー業界にとっても武器になり得るのではないだろうか。実際に、スマホアプリでの配車サービスは、日本国内でもいくつかのタクシー会社で導入されている。ウーバーが抱えている社会問題も含め、シェアライド事業が産んだ次世代の経済システムは、もはやその技術を扱う側のモラルや認識を問う段階に移行しているのだ。

シェアサイクル事業が問うモラル

-アジアで急成長するシェアサイクル
一方、アジアで広がりを見せるのが、自転車をシェアするシェアサイクル事業だ。日本でも、大阪のHUBchariをはじめとして、すでに実用化されている。中国の「巨人」、アリババはシェアサイクルのofoへ出資。テンセントがライバルのモバイクへ出資するなど、大きな注目を集めている。シンガポールを拠点とするObikeは、マレーシア、台湾、韓国、EU諸国など、2017年にローンチしたばかりにもかかわらず、16もの国と地域で利用できる(2018年3月現在)。

-Obikeが提示する次世代のシェアサイクル

シェアサイクルの魅力は、利用したい時にスマホアプリで近くのシェア自転車を見つけ、スマホアプリで解錠、支払いを済ませ、そして、片道で「乗り捨て」ることができるという点である。必ずしも車での移動が主流ではない地域で、観光客を中心に利用されている。前述のObikeは、同社のサービスに使用できる仮想通貨・Ocoin(通貨単位:OCN)を発行。既にICO (Initial Coin Offering)での資金調達とマーケットへの上場を完了し、早い時期の実装を目指している。ブロックチェーン技術を利用することで、決済コストの抑制が期待される。

アジアとヨーロッパで拡大するObike

-「シェア」の果てに

一方で、ウーバー同様に、シェアサイクル事業も問題に直面している。特にObikeは、駐輪する為のバイクステーションを持たないという特徴から、「どこでも乗り捨てられる」という点で支持を受けているのだが、当然の如く、違法駐輪が後を絶たない。ウーバー同様、各地で社会問題化している事案である。管理者や中央を置かない、または役割を最小限に抑えることで、コストを抑え、今まで市場価値がつかなかったものに価値を生じさせる。それが、シェアリングエコノミー、延いては、今後それを支えてゆくであろうブロックチェーン技術の経済的な意義であった。しかしそれが、誰もが責任を負わないということを意味するとすれば、世界は表情を変えるだろう。

 

今回ご紹介したシェアライドにせよ、シェアサイクルにせよ、新しいアイデアと技術は、我々の生活に飛躍的な利便性をもたらしてくれるだろう。同時に、そうした技術を人間がどのように運営していけるかという点は、常に模索し続けなければならない。geppo編集部では今後、シェアリングエコノミーの動向を注視しながら、そこに生きる人々を支える次代のシステムの在り方を考察してゆく。

 

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