在日の「僕」は、「在日文化」の風化を語る vol.2

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第二回目は在日の家庭環境を私の育った背景を通じて世代間の価値観の差などを書いていきたいと思います。
今回もあくまで僕個人の半径10メートル以内の話であり、一般性があるかは置いておきます。

在日の「僕」は、「在日文化」の風化を語る vol.1

在日の家庭

在日の家庭といえばどういう職業を生業にしている印象を持っておられるでしょうか。
パチンコ屋、焼肉屋、土建屋、はたまたヤクザや任侠右翼などのイメージを持っている方が多いでしょう。

実際僕の親族に幸かヤクザ家業をしている家庭はありませんでしたが、パチンコ屋や焼肉屋を営んでいる親族は多いです。
ただ、ヤクザ紛いの高利貸しや不動産ブローカーに近い会社をかつて経営していた親族もいると聞いたことがあります。
また職業差別がかつて(今も厳然とあるかもしれませんが、直接的に3~4世で就職差別を受けたという話は個人的に聞いたことはありません。)あった影響で、勉学が出来る人は弁護士や開業医になっている人もいますが、かなり稀なケースであります。
外的、内的影響で自営業者が多く、サラリーマン家庭が多い一般的な家庭とは色々と価値観が違う環境で育った在日はどういう意識を形成していったか、僕個人の環境を話していきたいと思います。

僕は幼少期の頃より、絵に描いたような家父長制、儒教精神が濃い家庭で生まれ育ちました。
父親がよく口に出して言っていた言葉は「親が黒いものを白と言えば、それは白と思え」であり、祖父母は「血は水より濃い。家族が何よりも大事」という価値観でした。
これも一族経営の自営業という経済、生活の背景があり、家父長制、儒教的精神が強く反映され易い環境であったと思います。

そして、僕は父が長男であり、その長男なので、その父権の恩恵と抑圧を親族の中でも特に味わう事になります。
思春期を迎えてからは、そういう旧態依然とした環境や価値観に違和感を感じて、反抗し始めるのですが、この過程で同世代の日本人の友人などの状況。それは、既に親世代(団塊ジュニア)が行った家からの解放、あるいは逃避を、1世代遅れで行ったようなものだと思います。
家長は絶対的君主として存在していたように当時は思っていたので、初めて口答えをした時は体中が震え、それは今までの自己存在への否定と決別でもあるわけですから、もう完全ポストモダンをやっているわけです。
1世代前がした事をわざわざ周回遅れで!

その個人的闘いの日々も年を経ると、まあ人は丸くなってくるものです。
「神聖にして侵さざる者」→「敵」になり、「敵」が相対化され始め、人間として見て行くようになりました。
結局は完全無欠の人間など存在するわけもなく、家父長制を支える家族一人一人も矛盾や、問題を抱えた人間でしかないと実感できたわけです。

 

没落する家父長制

その頃には、僕の家は没落し始めていました。
家業は土木関係の会社を経営していたのですが、荒れ狂う不況の中、時代に合わせた会社体制への変革が出来ずに、経営が破綻しました。
今まで家父長体制を裏付けていた経済力の衰退しました。
物理的に生まれ育った家を手放す段階になって、僕の中で「家」に対する捉え方はさらに変化していきます。
憎々しく、邪魔で仕方のなかった「家」の喪失は経済力の衰退という受動的なものであり、能動的な破壊や変革を起こしたわけでもないのに「家」が解体され始めたのです。

日本における我が家の形成は祖父の代から始まります。
祖父は、ヤクザでもパチンコ屋でも焼肉屋でもありませんし、総連や民団の熱心な活動家でもなく、重労働の土木工事を生業にして、戦後の経済成長に乗り豊かさを獲得した成り上がりの人です。
祖父母は毎回「子供の頃は日本人にニンニク臭い、朝鮮人、朝鮮人と馬鹿にされた」と口を酸っぱくして僕に話していました。
そういう逆境に晒され、学も生活のゆとりも無い中で唯一信じられるのは金だけだったのでしょう。
想像に難くありません。
他の在日1世も、この感覚がかなり強いと思います。
厳しい環境を勝ち上がった成功体験にしか、信じられるものがなく、客観性などに欠いた思考は、安易な精神論と根性論に陥るというのはよくある話です。
その築き上げた唯一の自負、自恃である経済力の損失は祖父にとっては凄まじい悲しみと虚無であったと思います。

父親の存在

父は、在日2世の典型的なタイプで、家庭の経済的豊かさもあり、一族で数少ない大学進学者であります。
有名大学であった事もあって、ある意味近代的な考え方はもっている人です。
今思うと一番口論し、10代後半から20代の半ばまでこちらから一方的に絶縁状態のようになっていましたが、これは僕が乗り越えるべき近代的立場の人であったという事と、父もまた祖父という絶対君主への従属が前提であった事が要因でしょう。
父は、就職活動時に、銀行へ就職すべく面接を受けていたらしいですが、「どうぞ韓国支店へ面接へ行ってください」などと就職差別を受けたと言っていました。大学も本名で通うような人だったので、何某か若い時代には思う事も多かったのかもしれません。
経営者としても会社を時代に沿うような形で改革する事に乗り出し、今もなんとか規模を小さくしたうえで存続させる原動力になっています。
今となっては色々と政治や在日についてや人生相談など、感情論でなく、ある程度の知識や現代性を踏まえて話せる親族は父だけです。

このような家父長制家庭で育ち、長男という立場と、次世代の家長である僕は自然と出自や在日という存在を意識するような環境下で人格形成を行っていきました。

この三世代、また親族なども含め民族意識、在日というものの捉え方、また本国との関係性、マイノリティーへの考え方などは世代間によって大きく変わっていっています。
それは滅び行く在日という存在、変化していった日本社会との関係性もあると思います。
次回は、その民族意識の変化と同世代(3~4世)について書きたいと思います。

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